吉田ゴンザブロー(老人アルバイター評論家)
昭和24年生まれの団塊の世代。シニア世代を代表し、老人アルバイターの特徴を分析。老人の「アルバイト列伝」を日々発信。某私立大学経済学部卒。中小食品メーカーに入社。部長職に上り詰めたが、定年退職手前で会社が事実上倒産。現在はとある事情から、スポーツクラブの会員専用駐車場と大手コンビニ弁当工場のダブルワーカー。「老害」とは言わせんぜ!
老人アルバイター評論家・吉田ゴンザブローです。
俺のバイト先のひとつ、スポーツクラブ会員専用駐車場管理室からは、様々な人間模様をかいま見ることができる。
ボーリングで余生をつぶす老人達
俺はもう、何十年もボーリングをやったことはないけど、今でも地味に盛り上がってる人達がいるんだってね。
今はコロナで自粛ムードだけど、老人達の中でもあんがい流行っているらしい。
これは4年前の話。
スポーツクラブの会員の武上さん(64歳)が、シニアのボーリング大会で優勝したらしい。
「吉田さん聞いてよ。俺、東区のボーリング大会、シニア部門で優勝したんだよ」
武上さんは、「写ルンです」のアルバムみたいなものを差し出した。
ストライクを出してポーズをとっているところや優勝トロフィーを授与されているショットを見せてくれた。
俺は、全く興味がなかったが、めんどくさいので、『へー、すごいやー』とか、『その写真、ゆっくり見たいですねー』とかてきとうに合わせていた。
そこで事件が起こる。
「そんなに写真がみたいなら、今度飲みながらゆっくり見せてやるよ」
まさか、まさかの飲みの誘いである。しかも写真付き。
地獄の飲み会 老人のスナップ写真を見せられる
俺は、やんわり断った。以前、お客さんと飲みに行って関係をこじらせたことがあるからだ。
というより、ジジイがボーリングやっている写真を、なぜ俺が見なきゃならない。
『お言葉はありがたいのですが、私、ダブルワークですし、飲みに行くお金もございません。せっかくのお誘いですが、ちょっと・・・』ともごもごしていたが、武上さんは引き下がらない。
「わかったよ。支配人に言って、あんたを休ませるようにしてやる。カネのことは気にしない。おごらせてもらうよ」
そんなこんなで、武上との飲み会は成立してしまう。
可もなく不可もない居酒屋。武上さんのボーリング仲間とかいう気の弱そうなクマガイとかいう初老のジジイが同席していた。
考えてみれば、武上さんとしゃべったことはほとんどなかった。
武上さんは、昔たまごを販売する会社に勤めていて、どこぞの営業所を立て直しただの、俺は日本会議で活動していただの、どうでもいい話を一方的にしたあと、『あー、そうそう、あんたボーリングの写真見たかったんだよね』と例の「写ルンです」のアルバムをテーブルに広げた。
そこには、暇をもてあそばせたジジイやババアがボーリングシャツを着て、ボールを投げている退屈な写真があるだけだった。クマガイもちょっとだけ写っていた。
『へー。すごいですねー』
『かっこいい』
俺はせいいっぱい、リアクションをして盛り上げようとしたが、本当につらかった。
みちょぱや、朝日奈央の偉大さがよくわかる。
そんなこんなで、だいたい2時間弱か、飲み会はお開きになる。
人生でベスト5に入る最悪な飲み会だ。
武上さんは、その後、しつこく俺をボーリングにさそってきたが、断り続けた。
武上さんは、その2年後、肺がんになって、スポーツクラブを退会した。
病気は気の毒だが、正直ほっとした。
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