吉田ゴンザブロー(老人アルバイター評論家)
昭和24年生まれの団塊の世代。シニア世代を代表し、老人アルバイターの特徴を分析。ブログで世相を斬りまくる「愛の語り部」。某私立大学経済学部卒。中小食品メーカーに入社。部長職に上り詰めたが、定年退職手前で会社が事実上倒産。現在はとある事情から、スポーツクラブの会員専用駐車場と大手コンビニ弁当工場のダブルワーカー。
老ター評論家の吉ゴンでおま!
さて、老人アルバイターの現場には、いろいろな経歴の人間がいる。だから面白くてやめられない。
1年くらい前に、俺の働いているバイト先(弁当工場)に60歳くらいの冴えないジジイが入ってきた。
そいつの名前は、夢枕隆司(仮名)。
ホントに冴えないという以外、形容する言葉がみつからないジジイだった。
はげた頭、低身長。うつむき加減覇気のない声で話すその姿は、まさに、温水洋一を彷彿させるものだった。
しかし、こいつの奥さんは、すごい肩書をもっていた。
知る人ぞ知る時代小説作家なのだ。
最初みんな信じなかった。
「ウソだろー、お前いい加減にせーよ」と。
じゃあ、ネットで調べてくださいよ。俺のカミさんは夢枕マユミいう名前で本を出してますから。
本当だった。著作も多数ある。雑誌に連載ももっている。売れっこかどうかは別として、プロの作家さんということは事実だった。
それから、夢枕は、工場でちょっとした人気者になっていた。「小説家の夫」と呼ばれるまでになった。
しかし、それから1ヵ月後、就業後に「事件」が起こる。
帰り道がいっしょだったので、俺のクルマで帰ることにした。道中でヤツは小さな声でささやいた。
「ゴンザブローさん、大変申し訳ございません。俺はひとつウソをついてました」
ウソ?
「俺のカミさんは小説家だって言いました。しかしあれはウソです」
何を言いたい?
「お、俺、実は去年の9月に、カミさんに逃げられているです。だから、正確には「元小説家の夫」なんです。工場のみんなに言ったほうがいいですかね?」
やはり・・・。
売れっこ作家は、冴えないジジイに三行半をつきつけたんだね。そりゃそうだろー。
わかったよ、夢枕。みんなには黙っててやる。
その日、俺たちは、夢枕のおごりで飲み明かした。
夢枕はいまでも、弁当工場で働いている。
カミさんに逃げられたことは、俺以外だれも知らねーよ。
※当サイトはある人物の依頼により立ち上げました。当サイトに登場する人物や職場などはすべて架空のものですが、実在する人物に取材をし、その方の話をモデルにし、本人と特定できないように大幅に修正しております。
コメント